「冬のソナタ」と酒

                              2004/07/27 下司 政代


 最近話題の韓流ドラマに私もすっかりはまっております。
 ことの始まりは昨年私の若い友人達とイギリスへ帰る友人のお別れ会でカラオケに行ったところ、その中の一人がハングルで聞いたことのない曲を歌いました。
 「どうしたの、また変わった選曲ね。」
 「これはね、BSで放送している“冬のソナタ”という韓国ドラマの中の歌よ。」
と教えてくれました。
 「これがね、またすごくいいドラマなの」と彼女はうっとりとしています。

 その時は、また物好きが始まったとさんざん馬鹿にしたのですが、ある日チャンネルを変えていると偶然そのドラマ「冬のソナタ」をやっておりました。
 彼女の言っていたのはこれかと期待せずに見てましたところ「ミイラ取りがミイラに」なりすっかり虜、毎回見る羽目になってしまいました。程遠くなく、ネット配信でも見るという熱の入れようです。

 NHKはカットされて短かったり、BGMが違ったり、順序が違ったりと「冬のソナタ」と韓国版の「キョウルヨンガ」は多少の違いがあることもわかりました。

 数年前から娘が衣料品屋さんかと思うほどどっさり買い込んできたり、若い友人が垢すりをして戻って皮膚が余計ダメージ受けたりと身近でも韓国行きが目立ち始めておりました。
 友人は「英語は通じないよ、ハングル文字を絵みたいに見て駅とかで降りたよ。」
 娘は「市場の年配のおじさん、おばさんは日本語で話してくれたよ。宿も低予算ですごく安い所を教えてもらった。」と、いとも簡単にといいますか屈託なくといいますか、一世代前の者にとっては、「近くて遠い国」の韓国へ行っております。
 さらに海外旅行や留学組の友人たちは、韓国の航空会社を利用し、安く行く方法をとるのも増えてきております。
 行き帰りは韓国に立ち寄って屋台で食べるのを楽しみとするということも気軽にやっております。

 第二次大戦やそれ以前の歴史を考えると、なかなか気軽に行ったり出来ない思いがあるのですが、若い世代が肩肘張らずに生のその国の生活を、そして歴史や文化を知り交流をするのはいいかもしれないと思ようになっておりました。

 しかしここへ来て「冬のソナタ」の主演者の一人「ぺ・ヨンジュン」の発するウィルスに感染し「ヨンフルエンザ」にかかったおばさん達が大挙して韓国旅行へ行ってW杯特需(これは韓国版キョウルヨンガに出てくるセリフです)ならぬ「ヨンさま」というか「冬ソナ」特需といいますか思わぬ経済効果も出ているようです。

 私もおばさん(因みにハングルではアズマ)の一人として、韓国までは出かけてはおりませんが本を買ったりして経済効果に寄与しているのです。字幕で見ては耳から自然にハングルを覚えるというおまけもついております。

 おばさん達ばっかりと言われようが、どうしようがいいじゃないか、国が力づくで他国へ行くより、「ヨンさま」に「冬のソナタ」に焦がれていく方がよほど平和だと思ったりしています。

 先日は朝鮮戦争に巻き込まれていった兄弟の愛を描いた「ブラザフッド」も見てまいりました。これにもチャン・ドンゴン、ウオン・ビンという話題のスターが出演するということで若い人がたくさん足を運ぶと思います。
 朝鮮戦争の頃日本は「朝鮮戦争特需」で戦後の経済復興が出来たということを思うとこれもまた考えさせられるものがありました。

 また監督のユン・ソクホさんも同世代のせいか、使用している音楽も懐かしいのが使われているのもうれしいのです。韓国でも民主化運動が起こった時代に青春時代を過ごした同時代的感覚が余計に「冬ソナ」に魅かれる理由の一つかもしません。

 「冬のソナタ」で主人公の二人が出会う街「春川(チュンチョン)」は、朝鮮戦争の時は激戦地だったそうだからいろいろと考えることがありますが、今回は「冬ソナと酒」というタイトルですからそこへ戻ります。


韓国の酒害

 2001年10月の東亜日報という新聞の記事によれば、OECD加盟国約30カ国のうち、韓国はお酒の消費量が最も多い国である事が分かったという記事が載っています。
 その中でもアルコール度数20度以上の消費が韓国を除く29カ国の5.6倍に達するという事です。
 そして社会的損失は年間17兆ウオン(100ウオン=10.75円:2003年10月現在)、直接間接の医療費、事故と二日酔いによる生産性の低下など飲酒によってもたらされる年間の経済社会的な損失規模は、1997年の場合、国民総生産の(GNP)の4%に当たる16兆6566億ウオンと推算されています。
 交通開発研究院が推算した交通事故による、1999年一年間の社会的費用(13兆1000億ウオン)より大きな規模であると記されています。
 2002年1月の朝鮮日報には、飲酒と関連した事故が毎年急増しているにもかかわらず、酒の消費量は継続して増えていると書かれています。

 韓国はどうも日本でもよく飲むといわれる高知県に似ているのかも知れません。
 先日東京からやってきた友人を連れていって居酒屋でチュウハイを注文したら、こんな大きなコップで来るんですかと驚いていました。もう一人の友人は「えー、こんなもんじゃないですか。」と答えていました。
 韓国は上記の記事でもわかるように、日本に比べると飲む機会が多いそうです。


冬ソナの酒

 「冬ソナ」でもけっこうお酒を飲む場面が出てきます。全20話のうち17話までは飲む場面があります。
 見ている方はご存知ですが、第1話から出てきますよね。
 酔っ払った中年のおじさんがお使いに行った帰りのユジンにからみ、チュンサンが助けるが警察に補導された二人。酔った中年のおじさんは、警察でも「あー、いらいらする。俺が酒を飲むのをみたか。」と警察官にからんでいました。

 5話では、登場人物の一人チンスクの就職祝いで主人公のユジンとサンヒョク、ヨングク達が飲む場面、飲めないユジンのコップにチンスクがビールを注ぐと婚約者のサンヒョクが心配をするのです。チンスクは「注ぐだけ後は私が飲むから」と、そうするとヨングクが飲むと変身するからと心配しています。
 どうもチンスクは飲むけれど強くはないタイプかと思いますね。
 同じ5話の後半では、アルコール分解酵素を持たないヒロインのユジンが初恋の人チュンサンを思って飲めないのに無理をして飲み、意識を失くしてミニヨンの部屋でチュンサンと勘違いをしてしまう場面が有ります。
 物語としては、まあ盛り上がるところですので仕方ないでしょうが現実なら「おっとユジン危ないよ、やっちゃいけない。」というところです。

 続く6話でも仕事の現場のスキー場に着き、現場を見て回るミニヨンがユジン達の会社の担当場所で、昼間から焼酎と思われるものを独酌で飲んでいる職人風のおじさんを見て足を止める場面があります。
 場面にはすでに空になったビンが一本材木の上にあったのを気づいた方がいるでしょうか。職業病でしょうか「すでにもう一本飲んでしまっているね、このおじさんは」と思ってしまいました。
 ここでミニヨンがいぶかしい表情をしたのは、アメリカで育ったとされる設定からです。
 もちろんアメリカで生活をした時間があるミニヨンとっては、昼間から仕事の現場でしかも公衆の前で堂々と飲んでいる姿は、逮捕される対象であり、問題飲酒者として捉えられるからでしょう。
 アメリカでは公衆の前での飲酒は逮捕の対象です。アメリカ映画などでは、紙袋でビンを隠して飲む場面が描かれます。アルコール類であることを隠しているわけです。
 しかしこのキム班長(キム次長とは別ですよ)を演じる役者さん、役以外でも本当によく飲む人ではないかと思うくらいにぴったりの風貌でまさにはまり役と思ってしまいました。
 思わず現実生活では、「どうぞ気をつけてアルコールと付き合って下さい」と願ったりしてしまいました。
 同じ6話で夜、関係者の食事会の場面で、ユジンがやっぱり飲めない体質だということがキム班長の話から納得いきます。
 まあ、5話での失敗が有りますからユジンも、もう飲まないでしょう。この顔合せ会のあと、ユジンとキム班長が一緒に帰りながら、酒を減らすようにうながすユジンに「俺から酒を取ったら生きていけないよ。」と答えるキム班長、これは完全に依存症です。
 そして亡くなった奥さんの命日だった夜に飲んで凍死しそうになって助かった場面があります。
 ここら辺はよく依存症の方達に共通した情景を描いていると思いました。監督のユン・ソクホさんの周りにけっこうお酒に問題のある人がいてその辺をよくわかっているのかもしれません。

 ミニヨンやチェリン、サンヒョクなどが飲む時は、ウィスキーの水割りを飲んでいる場面が多く、また皆で飲む場面ではビールもよく飲まれています。ミニヨンなどはアメリカ育ちという設定か一人か二人でウィスキーかビールを飲む場面になっていることが多いのです。

 相手に注いでやるというのは4話で恋人のチェリンと鮨を食べる場面で、ぐい飲みくらいのグラスに注いでやっているところだけではないでしょうか。ミニヨンはお酌をするという文化を身につけていないと考えられるのです。
 つまり自分の酒量は自分でという欧米の文化を身につけているといことでしょう。
 8話でミニヨンの同僚キム次長がユジンのことが気になって落ち込んでいるミニヨンの部屋に、飲もうとビール缶を持参するが、心を冷たくする必要があると水を飲むミニヨン。
 この場面ではキム次長は数えてみたら、5缶有ったうちの3缶をすでに飲んで4缶目を飲んでいるということになるかなと、ついつい飲酒量をチェックするという職業意識が働いてしまいました。
 この場面ではキム次長の飲み方といい、ゲップといい、スルメをかみながらといい、おもわずやっぱり文化は韓国から日本へと流れていると一人納得してしまいました。

 言葉も名詞の発音は日本語にとても近くて親しみを感じるし、覚えやすい。やはり文化はこの国からやってきているというのを感じないではいられません。
 その他韓国ではウィスキーなどの洋酒(ヤンジュ)は、日本よりも値段が高く高級酒というイメージが強いそうです。だからでしょうか、この冬ソナでは、アメリカ育ちのミニヨンということもありますがいわゆるヤングセレブとしてお金もある存在という事でしょうか、チェリンもしたがってブティックを出せるくらいですからこれもまた同じということで洋酒派として描かれています。 また庶民はビールよりも一般的なのが焼酎(ソジュ)だそうです。

 12話でチンスクが、チェリンに言われた言葉を気遣ってユジンを呑みに行こうと誘う場面がある。この時チンスクは杯の焼酎を一気飲みしている。
 韓国の人は飲み物と食べ物の相性にはこだわるそうです。日本ですと、とりあえずビールと何を食べてもビールといったことが多いですが、焼肉類・チゲ類には焼酎、おでんには焼酎・日本酒、フルーツ・フライドチキンにはビール、チヂミにはマッコルリ(トンド酒・どぶろく)と決まっているそうです。
 だからでしょうかバーで飲む場面(屋台ではなく)では、フルーツが大皿に沢山盛られて出されているのが不思議でしたがどうも習慣の違いですね。
 しかし日本だとリンゴやみかん、バナナ等は安いけれど果物は少々高い感じがしますが韓国では果物は高いのか安いのか少々価格が気になりますね。


飲食・喫煙のマナー

 冬ソナでは見られませんでしたが、年上の人と同席をした時のマナーは韓国で重要なのです。
 両手で注いで両手で受けるのはもちろんのこと、飲んでいるところが見えないように顔を横に向けて手で口を隠しながら飲みます。これはサンヒョク役のパク・ヨンハくんが主役を演じる「ラビング・ユウ」で、父親と飲む場面でこのマナーを守っているのが見られます。

 因みに韓国では水商売でない限り女性はお酌をしないと言われているそうですが、行った人によれば学生同士、先輩、恩師などと飲む場合も普通にお酌をしているそうです。
 これも親愛度によるのだろうということです。ある本によると韓国は、世界一のアルコール消費国と書いてあります、そして新入生歓迎コンパでの急性アルコール中毒死も後を絶たないと書かれています。
 ご存知のように韓国は日本よりも受験競争が激しい所です。例えば日本では芸能人の学歴というのは書かれるのは少ないのですが、韓国の芸能人は必ず学歴が書かれます。
 その韓国でせっかく受験競争をくぐって入った我が子が、新入生歓迎コンパのお酒で逝ってしまった親の嘆きはいかばかりでしょうか。

 ついでにタバコですが、冬ソナでもタバコの場面がありますが韓国は世界有数の喫煙国だそうです。酒とタバコ、日本も韓国のことはとやかく言えません。
 しかし、これも年上の人がいるところではご法度だそうです。ある程度大目に見られている飲酒よりも、喫煙の場合は成人していても年配者の前ではまず許されないそうです。 家族でも親戚でも同様だそうです。韓国人の前でタバコを吸うときはくれぐれもこのマナーを忘れてはいけません。

 韓国の「喫煙は親の前でするな、飲酒は親の前でしろ」は、儒教的道徳と深酒を若年者はするなという教えからでしょうか。
 喫煙率は高くても、食堂やファーストフード店では吸っている人を見かけず、禁煙エリアは日本より多いのではともいわれているそうです。冬ソナで始まった、わたしの近くて遠い国の韓国に対する思いはいろいろと広がっています。

 7月28日から放送される「ホテリア」でもハーバード卒業のM&Aを演じるヨンジュンに会えます。「冬ソナ」では、これまでと違ったソフトな役を演じたのですが、その1年前、「愛の群像」から2年間休んで大学に通ったあとのヨンジュンが出演しています。 「ホテリア」でヨンジュンは捨てられて孤児院から妹と共にアメリカに養子として渡り、一生懸命に生きてきた役を演じます。これには韓国の子どもの白人社会への売買問題等が背景にあるのですが、これはまた別の機会に述べましょう。

「チョンマル、コマスミダ。キョウルヨンガ」(本当に有難う“冬の恋歌”)

   それでは皆様、アンニョンハセヨ。