アルコールによって生じる身体の病気(Q&A集)


Q)なぜアルコールを飲むと、身体に害になるのですか?
A)アルコールの長期大量飲用によって生じる身体の病気には、
  1)アルコールが直接作用して起こるもの
  2)栄養不良によって起こるもの
の2つの原因によるものがあります。
 お酒が直接肝臓などの臓器に悪影響を与えるのみならず、大量に飲酒していると、十分な食事がとれなくなり、また下痢などの胃腸症状のため栄養の吸収も不十分になります。そのため、ビタミン不足となり、様々な病気を生み出す原因とも成りうるのです。

Q)どんな臓器がアルコールによって障害を受けるのですか?
A)肝臓に障害が生じるのは有名ですが、その他にも膵臓胃腸心臓神経筋肉ホルモン生殖機能など身体全体に問題が出てきます。

Q)アルコール性肝障害とはどんな病気ですか?
A)アルコール依存症で精神科へ入院する患者さんの9割に、アルコール性肝障害が認められます。また、アルコールの消費量と肝硬変の発生率とは、正比例するともいわれています。
 一日平均日本酒換算で約6合、10年以上飲み続けると、80%の人に肝障害が見られるようになります。
 アルコール性肝障害は次のように進んでいきます。

脂肪肝→アルコール性肝炎→肝硬変

 いったん、肝硬変に至るともう正常な肝臓には戻り得なくなります。

Q)脂肪肝とは肝臓がどうなるのですか?
A)アルコールを長期連用していると、まず肝臓に脂肪がたまりだします。そのため肝臓は腫れて、その表面はのっぺりとして、脂肪の黄色みを帯びてきます。腹部の超音波検査では、肝臓にたまった脂肪がきらきらと光るのがわかります。
 みなさんの中で、健康診断の時にγ-GTPという検査数値が高いと言われたことのある方がいらっしゃるかもしれません。その方は、この状態になっているといってよいでしょう。このときにお酒をやめるなり、酒量を控えて休肝日をつくられると元の正常な肝臓に戻ることができ、いったんお酒を止めてしまえば、1〜3カ月で何も治療しなくても治ってしまうのです。
 太りすぎの方は、肥満が原因でも余った脂肪が肝臓にたまり、同じ状態になりますので、体重を減らすことにも注意して下さい。

Q)急に肝臓が悪くなって死んでしまう事もあるのですか?
A)アルコール性肝炎になると、そのまま死んでしまうこともあります。どのような病気か説明しましょう。
 脂肪肝の状態が続いているにもかかわらず、お酒を飲み続け、さらに肝臓が悪くなると、肝臓の細胞が次々破壊されていきます。肝臓の細胞が壊れだすと、通常は肝臓の細胞の中に含まれるGOTとか、GPTなどと呼ばれる酵素が血液中で増加します。そのうちに、肝臓でつくられるビリルビンと呼ばれる色素が血液中で高くなり、皮膚が黄色に染まってきます(これを黄疸といいます)。
 食欲も落ち、ムカムカしたり、時には食べたものを吐いたり、体もだるくなってきます。さらに肝臓の破壊が急激に進むと、適切な治療を受けてもそのまま死に至ることもありうるのです。

Q)肝硬変とはどんな状態ですか?
A)肝臓の細胞は、壊されても壊されても再生し、元の健康な肝臓に戻ろうとします。でも、上記のようにどんどん肝臓が壊されているのに、まだ懲りずにアルコールを摂取していると、細胞が再生する能力を超えてしまい、壊された肝臓の細胞の代わりに結合組織という、いわば堅い「すじ」が肝臓の中の大部分を占めるようになります。これが肝硬変と呼ばれる状態です。

Q)肝硬変になるともう治らないのですか?
A)肝硬変は、アルコール性肝障害の終着駅と呼ばれ、ここに至るともはや、いかに酒をやめようと現代医学では肝移植でもしないと、元の身体には戻れません(でも、いかに重篤であってもアルコール性肝硬変の患者には肝移植はしてもらえません。あしからず)。

Q)肝硬変になるとどんな症状が出るのですか?
A)肝硬変になると、様々な症状が出てきます。先に紹介した黄疸、脾臓が腫れてくる(脾腫といいます)、手のひらが赤くなる手掌紅斑、胸の皮膚に毛細血管が蜘蛛の足のように浮き上がってくるクモ状血管腫、後で詳しく説明する食道静脈瘤、女性のように乳房が大きくなる女性様乳房腹水でお腹が張ってきたり、足がはれてきたり(浮腫)、アンモニアなどの老廃物が肝臓で分解されなくなって毒素が頭に回ってくる肝性脳症など、生きていくのに必要な肝臓の機能が欠如して起こる重篤な症状が生じてくるのです。最後に待っているのは、死しかありません。

Q)酒の飲み過ぎで膵炎になると聞きましたが、どんな症状が出るのでしょうか?
A)肝障害の次に多いのは、大量飲酒に伴うアルコール性膵炎です。
 アルコールを大量に摂取した後に、上腹部痛や背部痛が生じてきます。この膵炎の痛みは、人類が体験する痛みの中で一番強烈といわれています。モルヒネも効果が出ないといわれるほどの痛みです。また、非常に悪化すると死亡することもあります。
 膵臓は脂肪や蛋白質を分解する酵素を生産し、十二指腸に分泌しています。これらの強力な酵素が、膵臓自身を溶かしてしまい、ぼろぼろにしてしまうのです。
 また、後で述べる糖尿病の原因にもなります。

Q)アルコールを大量に飲むと胃の具合が悪くなるのですが、どんな状態なのですか?
A)大量飲酒により、胃粘膜の表面が傷害され、びらんや出血が認められるようになります。食欲不振、上腹部の痛みや吐き気、嘔吐、時には吐血することもあります。アルコールをやめることにより、すぐに症状はなくなり、胃の表面も元どおりに戻ります。これが、いわゆる急性胃炎です。

Q)飲酒が原因で潰瘍ができるのですか?
A)飲酒が原因で、潰瘍ができるかどうかはよくわかっていませんが、アルコールが急性胃炎と同様、胃粘膜に悪影響を与えることは確かです。
 断酒後のストレスによっても生じることがあり、胃潰瘍では食後から3時間の間、十二指腸では空腹時に腹痛が生じます。
 胃や十二指腸の壁に穴が開いたり、出血が激しい場合などを除いて、薬の内服で潰瘍は治癒します。

Q)大酒飲みが血を吐くことをよく聞きますが、どんな病気が原因ですか?
A)アルコールの多飲が原因で吐血する疾患としては、単なる急性胃炎の他、マロリー・ワイス症候群食道静脈瘤が考えられます。

Q)ムカムカしてもどしているうちに血を吐いたのですが、そのまま死ぬことがあるのですか?
A)激しい嘔吐を繰り返していると、食道と胃との境目の粘膜が裂けて大量の出血することがあります。これをマロリー・ワイス症候群といい、急性アルコール中毒でも見られる疾患です。通常は手術などしなくても、内科的治療で止血できます。

Q)肝硬変にかかっている人が血を吐いて、そのまま死んでしまいました。なぜ、血を吐いたのですか?
 肝硬変が進むと、肝臓での血液の流れが悪くなり、本当は肝臓へ流れるべき血液が食道の粘膜の下を走る静脈を経由して、心臓へ行くようになります。そうすると、食道の粘膜に数珠状の太い静脈が見えるようになり、これが破れると大出血を生じます。これが食道静脈瘤です。
 昔からよくアル中が血を吐いて死ぬといいますが、こんなときには、この静脈瘤が破裂して吐血しているのです。
 食道の静脈が赤く腫れているときには、食道内視鏡で見ながら、そこへ接着剤などを注入する(硬化療法)か、食道へ行く血管を切り放してしまう手術(食道離断術)などを受ける必要が出てきます。

Q)ウイスキーなどをそのまま飲んでいると、どんなことが起こりやすいのですか?A)アルコール度が高く、刺激の強い酒(たとえばウイスキーやウオッカなど)をそのまま飲み続けると、食道やのど、口の中の粘膜を傷つけ、そこから癌が生じる可能性が高くなります。

Q)大量のアルコールを何日も続けて飲んでいると、食事をとっていてもビタミンが不足すると言われますが、なぜですか?
A)大量飲酒者、特に連続飲酒発作に至ると食事の摂取が十分でなくなることがよく認められます。しかし、十分に食事をとっていても、大量飲酒をすると下痢が生じるため、摂取した栄養が十分に吸収できなくなり、栄養不良の状態になるのです。

Q)大量の飲酒は心臓にも悪影響を与えるのですか?
A)はい。長期にわたる大量飲酒のため、心臓の筋肉(心筋という)が障害されます。これをアルコール性心筋症といい、一日あたり日本酒5合あるいはビール大瓶4〜5本を10年以上毎日飲み続けると、生じるといわれています。
 最初は心臓が腫れている(心肥大)だけですが、徐々に進行し、身体を動かした時の息切れと動悸が見られるようになります。そして、ある日突然、ちょっとした原因(たとえば過労)で重い呼吸困難に陥ります。
 早期に発見し、断酒すれば治療可能ですが、末期になると断酒しても心臓の機能は元に戻らなくなります。

Q)大量飲酒で脳の病気になることがあるのですか?
A)アルコールによって、重篤な脳の病気に至ることがあります。場合によってはそのまま死亡したり、元に戻らなくなることもあります。痴呆などの精神症状が出現した場合には、通常の社会生活は送れなくなり、一生入院生活を続けなければならなくなることもあります。

Q)飲酒からくるビタミン不足で起きる脳の病気があるのですか?
A)ビタミンB1の不足によって起こる脳の病気に、ウエルニッケ脳症コルサコフ精神病があります。原因は脚気と同じなのですが、お酒に原因がある場合には症状は少し異なってきます。
 ウエルニッケ脳症では、足の筋肉には力が入るのに、ふらふらし手足が立たない(運動失調)、目の玉が一点を見つめたまま動かなくなる(眼球運動麻痺)、そしてほっておくとすぐに眠ってしまう(意識障害)などの症状が出現します。
 治療せずに放置すると死亡することもあります。また、治療を受け、これらの症状が回復した後に、次のコルサコフ精神病が出現することがあります。
 また、アルコール性ニューロパチーなどを合併することがあります。
 では、コルサコフ精神病とはどんな病気でしょうか? 通常は、ウエルニッケ脳症から回復した後、物忘れがひどくなる(記銘力障害)、場所や時間、人物などがわからなくなる(見当識障害)、忘れてしまった過去をその場限りのうそでごまかす(作話)などの症状が出現してきます。
 本当は午前中点滴を受けていたのに、「外出して買い物へ行ってきた」などと言ってみたり、「昨日は地震がありましたね」とこちらから水を向けると、「本当、びっくりしました」と答えるようになります。
 これら2つの病気には、大量のビタミン投与を行いますが、コルサコフ精神病については効果が少なく、症状がかなり長期にわたり残り、回復しないこともあります。
 また希にですが、ビタミンの一つであるニコチン酸の不足によって起こるペラグラという病気もあります。不安感が強くなったり、幻覚や妄想が出たり、半分寝ぼけたような「せん妄」と呼ばれるような状態になったりします。下痢や皮膚炎が出ることが特徴的ですが、ときにこれらの症状がそろわず、見逃され死に至ることもあります。

Q)アルコールが原因で、お酒がきれてからも歩くと足下がふらつくことがありますか?
A)身体のバランスをとる働きをする小脳や脊髄、あるいは末梢神経が冒されると、お酒がきれても、あたかも酔っぱらったように千鳥足になることがあります。また、先述のウエルニッケ脳症でも、ふらついて歩けなくなります。

Q)脳が縮むって本当ですか?
A)大量のアルコールを長年飲んでいると、アルコールが直接脳を攻撃して、大脳や小脳が縮んできます。
 小脳が縮む病気をアルコール性小脳萎縮症といい、足腰が立たなくなって飲酒していないのに千鳥足になる(小脳性歩行)、舌がまわりにくくなる(構音障害)などの症状が出現します。断酒によって症状が軽くなることがありますが、通常は後遺症が残ります。
 小脳と同様に、アルコールの直接的な作用によって、大脳、特に前頭葉と呼ばれる大脳の前半分が小さくなることがよくあります。なお、前頭葉は物事を考えるときに重要な働きをするといわれています。
 ただし、後で述べるアルコール性痴呆とこの脳萎縮とは直接関係がないといわれていますが...なお、一度小さくなった大脳も断酒すれば少しはふくらんできます。

Q)大酒を飲んでいると、ボケることがあるのですか?
A)大量飲酒によって痴呆が生じるかどうかについては、否定的な意見が多く出ていますが、一部の大量飲酒者にボケ症状や性格の変化が認められることも事実です。

Q)足の先がビリビリ痛むことがあるのですが、どんな病気が考えられますか?
A)アルコールで末梢の神経が冒されることがあります。アルコール性ニューロパチー(神経障害)といいます。手足の末端の方から感覚がなくなったり、ビリビリとしびれたりします。特に後者のビリビリ感が強いのがアルコールによる神経障害の特徴です。
 通常は断酒とビタミン投与でよくなりますが、ビリビリ感が残ることもあります。ビリビリして痛いので、飲酒するのではますます症状を悪化させてしまいます。

Q)大量に飲酒すると筋肉が解けると聞いたのですが...
A)アルコール性ミオパチーといって、アルコールのために筋肉が溶けてくる病気があり、飲酒とともに徐々に悪くなる慢性のものと大量飲酒によって急激に起こる急性のものとがあります。
 慢性のミオパチーでは、手足の筋肉でも身体に近い部分の筋肉が細くなり、力が入らなくなります。断酒とビタミン投与で回復します。
 大量飲酒をした患者さんの中に尿が赤くなり、筋肉が腫れて痛むと訴える方がおられます。アルコールが原因で筋肉が急速に溶けてしまい(横紋筋融解症)、筋肉から血液に溶け出したミオグロビンと呼ばれる物質が尿の中に排泄され、赤くなるのです。このミオグロビンが血液中に多くなると、血液をこす腎臓のいわばろ紙に当たる部分が目詰まりし、尿が作れなくなることがあります(急性腎不全)。尿がでなければ死んでしまいますので、血液透析が必要になります。
 これらの病気は、断酒して筋肉が溶けなくなれば回復します。

Q)お酒で骨ももろくなるのですか?
A)大量飲酒を続けると骨粗鬆症といって骨がもろくなる病気が起こりやすくなります。

Q)美空ひばりが股関節を痛めた原因が、お酒の飲み過ぎだというのは本当ですか?
A)アルコール性肝硬変でなくなった歌手の美空ひばりが、アルコールの多飲が原因で晩年この病気、大腿骨骨頭壊死に苦しんでいたことは有名です。アルコールやステロイドホルモンの服用などから、大腿骨(太腿の骨)が股関節を形成する部分(骨頭)が腐ってくる病気です。股関節や足腰の痛みが生じてきます。痛みのために次第に歩けなくなり、日常生活にも支障をきたすようになります。
 鎮痛剤で痛みを和らげるか、腐ってしまった部分を金属の人工関節に置き換えるなどの治療があります。

Q)アルコールが原因で糖尿病にもなるのですか?
A)はい。食事をとると、血液中のブドウ糖(血糖)が上昇します。これを下げる働きをするホルモンがインスリンで、膵臓で分泌されます。このホルモンの分泌が低下し(あるいはなくなり)、血糖が下がらなくなる病気が糖尿病です。前述のように、アルコールは膵臓を破壊しアルコール性膵炎を生じますが、一方でインスリンを分泌する膵臓の細胞もこわしてしまい、糖尿病の原因ともなります。また、アルコールもかなりのカロリーを有している(清酒1升で約1800キロカロリー)ので、大量飲酒は過剰なカロリーを摂取することになります。このことからも糖尿病は起こりやすくなります。
 糖尿病は成人病の一つで、珍しい病気ではありませんので、みなさんもよくご存じかもしれません。血糖値が高くなると、のどが乾き水が飲みたくなって、尿量が増えます。そして、尿に糖が降りるようになります。そのまま放置すれば、徐々に体重が減り、いろいろな合併症が生じてきます。
 まず、手足の末端からしびれが生じる糖尿病性ニューロパチー、次第に視力が落ちてきてほっておくと失明する糖尿病性網膜症、最後には腎臓がやられ血液透析が必要になります(糖尿病性腎症)。
 早期に治療を始めれば、断酒と食事療法、運動療法だけで十分血糖のコントロールができますが、進行すると飲み薬が必要になったり、場合によれば毎日インスリンの注射をしなければならなくなります。
 飲酒を続けながら、糖尿病の内服薬を飲んでいると、低血糖発作を引き起こし危険です。
 糖尿病はそれ自体痛くもかゆくもありませんが、その反面万病の元ともいわれ、上記の合併症のほか、細菌やウイルスに感染しやすくなったり、動脈硬化を促進し心筋梗塞脳卒中の原因にもなりますので、十分な治療が必要です。

Q)妊娠中にお酒を飲むと、胎児に悪影響が出ることがありますか?
A)妊娠中の女性が大量飲酒を続けていると、出産した子供に先天的な異常が認められることが、明らかになっています。これを胎児性アルコール症候群といい、特徴的な顔つき、知能障害、発育障害、心臓などの奇形が生じてきます。

Q)お酒を飲み過ぎると、夜の生活に弱くなるって本当ですか?
A)お酒を飲みすぎると、インポテンツや精子数の減少を引き起こし、男性不妊の原因となります。
 アルコールを分解する酵素は肝臓にあり、ほぼ100%が肝臓で代謝されます。ただ、一つ例外があり、男性では精巣にもアルコールを分解する酵素があります。そのため、アルコールが分解される途中でできるアセトアルデヒドという非常に毒性の高い物質が精巣中で増加し、精子を作る能力を奪ってしまいます。また、男性ホルモンの合成も抑えてします。
 一方、ホルモンのバランスが乱れて女性ホルモンが多く作られるようになり、大量飲酒者のなかには、女性の様な乳房を持つ人も出てきます(肝硬変でも出てくる女性様乳房)。
 このようなことから、アルコールは男性としての機能を奪ってしまいます。


 以上、アルコールはさまざまな障害を身体に与えます。幸いにしてアルコール依存症にかかっていない方も、適正飲酒に十分心がけてください。
 次にアルコール依存症者の心理について考えてみましょう。
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